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シンクロ日本代表「人間は、自分の願いが叶いそうなとき、ひるむ」

 

井村雅代『あなたが変わるまでわたしはあきらめない』

日本シンクロナイズドスイミングの元日本代表コーチの本がなかなか面白かった。大阪弁で喋る彼女の姿をテレビでみたことある程度だった。ガリガリと声をあげて怒ってるようなイメージがあったけれど、本を読むとものすごいクレバーだった。勝つ為にコーチをやる。勝たせなきゃ意味がない。選手に怒ってるのはもちろんだが、それは結構メディアの切りとりで、実はそれと同時に具体的に手をこうする足はこうすれば小さく見えないといった常に身体の使い方の指示をしていたという。さて、その中でも、俺が気になったのは大きく二つ。

2001年の世界選手権のこと。デュエットで立花・武田ペアが日本人初の世界一になった。ところがこの日の裏話がおもしろい。決勝の朝、練習していた二人はあまりに完璧だった。それを見たロシアの選手が飛び込むタイミングを間違うくらいだったという。ところが夕方の本番前の練習で急に合わなくなった。井村いわく、ぐちゃぐちゃ。彼女は二人の筋肉を刺激したりマッサージしたり、とにかくできることをした。でもダメだと感じたと言う。それがギリギリの本番15分前になって二人の演技がポーンとはまった。井村は「これで優勝いった」と思ったという。

その出来事を振りかえって井村は言う。

結局、優勝できました。でもあとで考えたのです。なんで朝はあんなうまかったのに、直前になって乱れたのだろうって。結論は、人間は、自分の願いが叶いそうなとき、ひるむということで。美哉も武田もメンタルが崩れたんです。だから、自分の大きな願いが叶うときは、必ず、その前に大きな砦がある。大きな砦って何かっていえば「ひるむこと」「目減りすること」です。だから、本番で目減りしても勝てるようにしておかなければいけないんです。

 

 

 

さて、気になった話もう一つ。

オリンピックはスポーツの祭典。祭典というのはお祭り。人間の限界とか人間のすごさとかを見るのが楽しいんです。大切なことは、見終わったあと、「スッとした」「エネルギーが出た」という気分が残ることです。

だから、哲学の道に入ったら空かん。日本のテイストはいいけれど、「わび・さび」の域に入ったらアカンのです。

やっぱり勝ち方というのがあると思います。いいルーティンだから勝てるということはない。いいルーティンでも、それを一回しか見ないジャッジに「これはうまい」と思わせないといけない。つまり「シンプル・イズ・ベスト」になっていないとダメなんです。

複雑がベストならそうします。でも、試合で五回くらい見せられるならいいけれど、一回じゃわからない。かめばかむほど味が出るスルメみたいな演技じゃだめなんです。だから中国は、観客が喜ぶことを並べた(カンフーをモチーフにしたポーズ)。フリーをみたら喜びまくりでしょ。お祭りだから、喜ぶことをするわけです。喜んだら、「うわー」と拍手してくれるわけじゃないですか。

拍手ってフツーは一分もせえへん。拍手が弱くなりかけたら、また「うおー」と盛り上がるものを持ってくる。ちゃんと周波があるんです。

どうしたら長時間の拍手がもらえるか。いろんな人に聞きました。ある先生が「それは心臓の鼓動の数だ」と教えてくれました。心臓の鼓動に合うリズムだと、人は簡単に手拍子、足拍子をするそうです。まず手拍子をし、次に足を踏み鳴らすそうです。だから、心拍数に演技のリズムを合わせるんです。

あと、お祭りだから、「うわー」と声を出したい人がいます。そういう人たちに、ポンときっかけをつくってあげる。うまくいけば、四分間、ずっと騒いで拍手をしてくれます。